Object Trackingとは
Object Trackingとは、ルーター単体でWAN回線を冗長化することを目的にしています。
この機能は、ネットワークの監視対象に対してICMP Echoリクエストによる応答性を検査することによって障害を検知したら、バックアップ回線に切り替えて、障害復旧時には、自動的に経路を切り戻すことができます。
Object Trackingによる回線の冗長化の仕組み
Object Trackingとは、指定した宛先に対して、ICMP Echoリクエストパケットを常に送信することにより、Echoリプライパケットが途絶えたときに、自動的にバックアップ回線に切り替える仕組みになっています。
ICMPパケットの送信には、SLA (Service Level Agreement)を利用します。SLAは、メイン回線を使用し、指定したIPアドレスに対して、ICMPパケットを利用して到達性の監視を行います。
また、送信間隔やタイムアウト時間等、詳細な設定ができます。但し、2本の回線を同時に使用するような負荷分散はできません。
設定可能なCiscoルータ例
- Cisco 1800シリーズ
- Cisco 2800シリーズ
- Cisco 3800シリーズ
- Cisco ISR 860シリーズ
- Cisco ISR 880シリーズ
- Cisco ISR 890シリーズ
- Cisco ISR 1900シリーズ
- Cisco ISR 2900シリーズ
- Cisco ISR 3900シリーズ
- Cisco 1800 / 2800 / 3800 シリーズルータは、Feature set:Advanced Security以上が推奨。
- Cisco ISR 860 / 880 / 890 / 1900 / 2900 / 3900 シリーズルータは、Feature set:Data及び Securityが推奨。
通信環境の想定
設定の概要
- SLAを定義して番号を割り当てます。また、回線の状態を確認するために、対象のサーバーIPアドレスやICMPパケットの送信間隔、タイムアウト時間を設定します。
- SLAのスケジュール設定を行います。ここでは、SLAパケットは無期限で動作する設定をします。
- trackコマンドで指定する番号とSALの番号を紐づけます。
- デフォルトルートを2つ作成します。1つ目は、メイン回線として利用するルートを設定し、track番号を紐づけることでルートをSLAで監視します。
2つ目は、バックアップ回線として利用するルートを設定します。また、バックアップ回線として、利用するためにアドミニストレーティブディスタンス値 (ルートの優先度)を低く設定します。 - メイン回線を介して、サーバーとの通信を監視するようにルートマップを作成します。
- 作成したルートマップを有効にします。
設定例
SLAの定義と番号の割り当て
Router> enable
Router# configure terminal
Router(config)# ip sla 1
Router(config-ip-sla)# icmp-echo 192.168.20.253 source-interface FastEthernet0
Router(config-ip-sla-echo)# frequency 10 #ICMPパケット送信間隔が10秒
Router(config-ip-sla-echo)# timeout 500 #タイムアウト時間が5秒
Router(config-ip-sla-echo)# exit
回線の状態を確認するために、対象のサーバーIPアドレスやICMPパケットの送信間隔(秒)、タイムアウト時間(ミリ秒)を設定をします。
IP SLAスケジュールの定義
Router(config)# ip sla schedule 1 life forever start-time now
ICMP Echoリクエストのスケジュールを無期限に動作させるように設定をします。
監視オブジェクト番号の定義
Router(config)# track 100 rtr 1 reachability
Router(config-track)# exit
監視オブジェクト番号100を定義して、このオブジェクトにSLA番号1を紐づけます。
VLANの作成
Router(config)# vlan 10
Router(config-vlan)# exit
インタフェースの設定
Router(config)# interface Loopback0
Router(config-if)# ip address 1.1.1.1 255.255.255.255
Router(config-if)# interface FastEthernet0
Router(config-if)# ip address 10.1.1.1 255.255.255.0
Router(config-if)# no shutdown
Router(config-if)# interface FastEthernet1
Router(config-if)# ip address 10.2.2.1 255.255.255.0
Router(config-if)# no shutdown
Router(config-if)# interface FastEthernet2
Router(config-if)# switchport access vlan 10
Router(config-if)# interface vlan10
Router(config-if)# ip address 192.168.10.254 255.255.255.0
Router(config-if)# exit
トラッキング対象オブジェクトの設定
Router(config)# ip route 0.0.0.0 0.0.0.0 10.1.1.2 track 100
メイン回線対向先の10.1.1.2インタフェースをトラッキングの対象オブジェクトとして、番号100を設定します。
バックアップ回線の優先度を設定
Router(config)# ip route 0.0.0.0 0.0.0.0 10.2.2.2 10
バックアップ回線に優先度を10に設定して、メイン回線として利用されないようにします。
アクセスコントロールリストの設定
Router(config)# access-list 101 permit icmp any host 192.168.20.253 echo
サーバ(192.168.20.253)へのICMP Echoリクエスト送信を許可するようにします。
ルートマップの作成
Router(config)# route-map MAP permit 10
Router(config-route-map)# match ip address 101
Router(config-route-map)# set interface Null0
条件に一致した場合のパケット転送先として、Null0インタフェースを指定します。
このNull0に運ばれたパケットはルーターによって破棄されます。
また、このコマンドは、次のset ip next-hopコマンドの後に評価されます。
Router(config-route-map)# set ip next-hop 10.1.1.2
Router(config-route-map)# exit
条件に一致した場合は、ネクストホップとして指定します。
もし、到達できない場合は、Null0インタフェースに送信されパケットが破棄されます。
ローカルポリシーの設定
Router(config)# ip local policy route-map MAP
Router(config)# exit
ルートマップをローカルポリシーとして設定します。
設定の保存
Router# copy running-config startup-config
Object Trackingは、HSRPと組み合わせることで、ネットワークの高可用性が向上します。
また、Catalystスイッチ スタックの冗長化により、さらにネットワークの高可用性が向上します。